FFRを日常臨床で使いこなす〜For the daily use of FFR〜【FFRを極める】

東京医科大学八王子医療センター 循環器内科 田中 信大 先生

7月に京都で開催された第26回日本心血管インターベンション治療学会学術集会(CVIT2017)の共催セミナー「FFR*を極める」では、わが国のFFRの第一人者である田中信大先生(東京医科大学八王子医療センター循環器内科)と、大規模臨床試験のFAME試験にも参加し「FFRの父」とも呼ばれるNicoH.J.Pijls先生〔CatharinaHospital(オランダ)〕が登壇し、FFRの可能性と虚血指標についての最新動向を発表した。
*FFR:Fractional Flow Reserve(冠血流予備量比)

治療戦略の決定に大きな影響を与えている FFR計測

日常臨床のなかでFFR計測は虚血の診断に加えて、PCI終了時の決定(術後の初期開存の確認)と長期予後の予測にも有用である。FFRを計測することで、中等度冠動脈狭窄病変においてPCIをせずにdeferするかどうかの判断が容易になる。日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)は2012年に、FFRなどでの補助診断を行った中等度冠動脈狭窄の全症例を登録し、治療実態や予後を解析するCVIT-DEFERregistryを行った1,2)。CVIT-DEFERregistryからは、血管造影上の狭窄の程度とFFR計測結果が一致しない場合が少なくなく、右冠動脈(RCA)と左回旋枝(LCX)では血管造影上で75%の狭窄と判断された病変のうち65%以上がFFRは0.8を超えており(ミスマッチ)、また、左前下行枝(LAD)では血管造影上50%の狭窄と判断された病変の33.4%がFFRは0.8以下だったことが示されている(リバースミスマッチ)(図1)。

CVIT-DEFERregistryでは血管造影後(FFR計測前)の術者医師に「薬物治療、PCI、冠動脈バイパス術(CABG)のうちどれを選択するか?」の質問に答えてもらっており、FFR計測後にその治療戦略がどう変わったかを調査している。その結果、血管造影後に薬物治療を選択した医師のうち12%がFFR計測後にPCIまたはCABGに移行し、PCIを選択した医師のうち26%が薬物治療に治療戦略を変更した(図2)。登録患者全体では39%がFFR計測後に治療戦略が変更され、PCI施行は22%減少、薬物治療は41%増加するなど、FFR計測が治療戦略の決定に大きな影響を与えたことが明らかになった。

医師はFFR値を用い、総合的な判断から治療戦略を決定

一方、こうしたdeferral例の長期的な安全性が担保されているかどうかがもっとも重要であり、CVIT-DEFERregistryでは3,272症例/3,857血管を1年間追跡して、FFR計測による治療戦略の決定が予後に貢献しているかどうかを検証している。3,857血管のうち2,498血管(64.8%)がdeferとなり、1年間の経過観察中、イベント発生は87件〔3.5%、標的病変再血行再建術施行(TVR)86件、心筋梗塞(MI)1件〕であった。一方、PCI施行群:1,359血管(35.2%)のイベント発生は90件(6.6%、TVR88件、MI2件)であり、FFR計測からdeferを選択した症例でイベント発生率が有意に抑制されていた(p<0.05)。FFRが0.8を超えていた2,222血管(57.6%)のうち1,992血管(89.6%)がdeferとされた反面、230血管(10.4%)にPCIが施行されていた。また、FFRが0.8以下であった1,635血管(42.4%)のうち506血管(30.9%)がdeferとされていた。全3,857血管のうち19%がFFR計測結果に反する治療法が選択されており、医師がFFR値だけでなく、病変の位置や症状なども考慮して治療戦略を決定していることがうかがわれた。FFRが0.8を超えていた群のdefer例とPCI施行例、FFR0.8以下群のdefer例とPCI施行例では経過観察中のイベント発生率に有意差は認められなかった(図3) 3)。

しかし、FFR0.8以下でdeferとされた症例ではイベント発生率がやや高く、FFR0.8以下例でdeferを選択するには、こうしたリスクを理解したうえで総合的に判断することが求められる。

術後のFFR計測で ステント拡張状態と残存病変の影響を評価

前述したように、FFRは虚血の診断のみならず、PCI終了時の決定(術後の初期開存の確認)にも有用であり、最近のworkhorsewireとしても使えるプレッシャーワイヤを用いて、ぜひステント留置後のFFRを計測していただきたい。LADにステントを留置した自験例では血管造影上ではステントが十分に拡張していたが、distalのFFRは0.78と十分ではなかった。こうした場合にはどこに圧較差が残っているかを調べることが重要であり、FFRを再計測したところ、ステント内の圧較差はなかったものの、proximalに大きな圧較差があることが判明した。IVUSで確認するとステント留置部位の手前に冠動脈解離があり、その部分で圧較差が大きかったことから、そこにさらにステントを追加留置
したことでdistalのFFRは0.88まで改善した。一方、IVUSから十分な拡張が得られた(得られなかった)と判断された場合もFFRを計測すると異なった判定になることがある。圧較差が残っている症例をIVUSで見直してみると、圧較差が残っている原因として、不十分なステント拡張、ステントのエッジ部分に解離が残っている、不完全なステントアポジション、ステントが病変をカバーしきれずにプラークが大きく残っているなどが判明した。IVUSによる確認とともに、術後はプレッシャーワイヤを用いてステントの拡張状態と残存病変の影響を評価することが非常に有用と考えられる。

参考文献

1)Nakamura M, et al. Cardiovasc Interv Ther 2014; 29: 300-8.
2)Nakamura M, et al. Cardiovasc Interv Ther 2015; 30: 12-21.
3)Tanaka N, Nakamura M, et al. Circ J 2017 Apr 26. [Epub ahead of print]

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