Catharina Hospital (オランダ) Nico H.J.Pijls 先生

7月に京都で開催された第26回日本心血管インターベンション治療学会学術集会(CVIT2017)の共催セミナー「FFR*を極める」では、わが国のFFRの第一人者である田中信大先生(東京医科大学八王子医療センター循環器内科)と、大規模臨床試験のFAME試験にも参加し「FFRの父」とも呼ばれるNicoH.J.Pijls先生〔Catharina Hospital (オランダ)〕が登壇し、FFRの可能性と虚血指標についての最新動向を発表した。
*FFR: Fractional Flow Reserve(冠血流予備量比)

最近のiFRについての大規模研究をどう読むか

冠血流予備量比(FFR)とともにカテーテル検査室で得られる虚血指標である瞬時血流予備量比(instantaneouswave-FreeRatio:iFR)の有用性について、2017年3月の米国心臓病学会(ACC)で、大規模臨床研究であるDEFINE-FLAIR試験1)*とiFR-SWEDEHEART試験2)**の結果が報告された。両研究を注意深く見ていきたい。両試験を含めて、iFRのこれまでの臨床試験はFFRとの比較試験であり、iFR独自の結果を示した臨床エビデンスは見当たらない。iFR計測は最大充血を誘発するための薬剤を必要としないことをメリットとしている反面、iFRの虚血診断精度はFFRの80%であり、20%の不一致症例を認めている。不一致症例は特に血管径の大きい若年患者で多く見られる。

DEFINE-FLAIR試験とiFR -SWEDEHEART試験のピットフォール

1.両試験ともに統計学的にパワー不足

まず、両試験ともに統計学的にパワー不足(underpowered)であることが指摘される。前述したようにFFRとiFRの診断一致率は80%であり、違いを検証するためのデータとしては残りの20%が用いられたに過ぎない。すなわち、両試験の約3,500病変のうち20%の700病変しか比較の検討に使われていないともいえる。
サンプル数が少なければ非劣性が示されやすくなる傾向も理解しておく必要がある。これに対して、FFRについては多枝病変を有する冠動脈疾患患者におけるFFR計測の予後改善効果を検討したFAME試験3)で約2,800病変について解析され、非劣性ではなく、統計学的な有意性が証明されている。

2.低リスク患者での試験の結果が実臨床に当てはまるとは限らない

2番目にDEFINE-FLAIR試験とiFR-SWEDEHEART試験は低リスク群(1人あたり1.4病変/0.7ステント、45%がPCI未施行、1年間のMACE発生率7%)であり、FAME試験の対象患者群(1人あたり2.8病変/1.9ステント、11%がPCI未施行、1年間のMACE発生率13%)と大きく異なる点にも着目すべきである(表1)。

一般的に母集団が低リスクである場合には、どんな治療法も、ときにはプラセボさえも他の有効な治療法に対して非劣性になりやすいと言われている。こうした低リスク集団を対象にした試験結果をさまざまなリスク背景を持つ患者を取り扱う実臨床の現場で当てはめる際には慎重さが必要である。これに対してFFRに関して行われた各種の臨床試験は実臨床で見られる困難かつ複雑な病変を対象としてきた頑健さがある。一方、両試験のメタ解析からは、患者群が低リスクであるにもかかわらず、iFR群で死亡が多かったことが指摘されている(p<0.09)。

3.両試験ともに非劣性マージンが大きい

DEFINE-FLAIR試験とiFR-SWEDEHEART試験はともに非劣性マージン(FFRより劣る幅として臨床的に許容される最大レベル)が3.2%と大きかったことも注意すべきである。統計学的に問題ないように見えるかもしれないが、侵襲・コストともに高くないアデノシン負荷を回避する代償としてMACE発生率を上げることは倫理的に許容しがたい。また、もしも両試験に血管造影ガイド群があったとしたら、iFR群に対して非劣性であったはずだ。

安静時における拡張期の圧指標はどれもほぼ同じ

2012年にSenとDavisによって、心周期中にエネルギー波動がまったくない血管抵抗が最小で安定している時相が存在しており〔Wave-FreePeriod:以下WFPとする:拡張期の開始25%から終了5msec前までの幅と定義(図1左側)〕、このWFPにおけるPd/Pa値***、すなわちiFRは最大充血時のFFRとほぼ同等であるという仮説が提唱された。心筋虚血を判定する際のFFRのカットオフ値は0.8であり、これに相当するiFRのカットオフ値は0.83という仮説も提示されたものの4)、この仮説はこれまでに検証されていない。また、イヌやブタを使った動物実験ではWFP中の血管抵抗値は250%まで変動し、ヒトにおいても安静時・充血時の状態によって大きく変化することが知られている(図1右側)。

iFRは独占的に使用されている指標であり、そのアルゴリズムが公開されていないこともFFRとは異なる。ここでiFRをはじめとした安静時における拡張期の圧指標を整理しておく(表2)。

これらの圧指標の精度、感度、特異度はいずれもFFRの78~79%程度であり、陽性的中率・陰性的中率もFFRよりは低い(図2)。ROC解析の結果からは診断効率はどれもほぼ同じであり、iFRが目新しい指標であるとは言えない。拡張期全体を通じた安静時Pd/PaであるdPRのほうがより容易な指標と言えるだろう。

注釈

*DEFINE-FLAIR試験:中等度の冠動脈狭窄を有する2,492例において、治療戦略決定にiFRを用いた群の臨床アウトカムについてFFRに対する非劣性を検証した多施設無作為試験。1年後の全死亡、非致死的心筋梗塞、予定外の再血行再建の複合エンドポイント(MACE発生率)についてiFR群6.8%、FFR群7.0%(p<0.003)とiFRの非劣性が示されたとしている。
**iFR-SWEDEHEART試験:北欧3国の2,037例を対象に、DEFINE-FLAIR試験と同様にiFRを用いた群の臨床アウトカムについてFFRに対する非劣性を検証した多施設無作為試験。1年後のMACE発生率についてiFR群6.7%、FFR群7.0%(p<0.007)と、DEFINE-FLAIR試験と同様にiFRの非劣性が示されたとしている。
***Pd/Pa値:狭窄病変遠位部圧(Pd)/狭窄病変近位部圧(Pa)。

参考文献

1)DaviesJE,etal.NEnglJMed.2017;376:1824-34.
2)GötbergM,etal.NEnglJMed2017;376:1813-23.
3)ToninoPA,etal.NEnglJMed.2009;360:213-24.
4)SenS,etal.JAmCollCardiol2012;59:1392-402.

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