岐阜ハートセンターは病床数 80 の単科病院で、東濃圏以外の岐阜県下という広大なエリアをカ バーする。常勤 10 名の内科医と 4 名の外科医が車の両輪のように、心臓治療を行うチームとし て機能している。昨年 1 年間の症例数は PCI が 724 例、開心術が 173 例(CABG は 36 例)で あり、カテ総数になると 2,563 例に上る。
今回は松尾仁司院長にFFRなどPhysiology Evaluation について、それらをいかに診療に活 かすかを尋ねてみた。

岐阜ハートセンターで FFR を診療に取り入れたきっかけを教えてください

何よりも、患者さんに最大のメリットをもたらす PCI を提供したいと考えるからです。心筋虚血は患者さんの予後を決定する大きな因子です。それを判定する方法がプレッシャーワイヤー (PW)による FFR(冠血流予備量比)と iFR(安静時における拡張期の特殊な時相の瞬時圧比) ですね。AHA や ESC ガイドラインで強く推奨されている FFR は、カテ室内で行える虚血評価として、今のところ最も信頼できる方法と言えます。

実際のワークフローについて教えてください

まず、通常の診断カテーテル検査を行います。CAGで中等度病変が見つかった場合、その病変が虚血の責任病変であるかを見極めるため、PWでFFR/iFRRを測定します。当センターでは、昨年FFRとiFRRの測定を合わせて386例に施行しました。
CAGで有意狭窄に見えても実は責任病変ではないことがあります。つまり、拡げる価値がある病変かどうかの判断にFFR/iFRRを使うのです。FFR/iFRRでしっかりと虚血陽性を確認した後にPCIを施行しています。

先生はなぜPhysiologyをやってみようと考えられたのですか

核医学に興味を持っていた私は、CAGと心筋シンチとの所見が乖離するケースを多く経験し疑問を持っていました。また、生理学的な虚血の重症度と解剖学的な虚血の重症度が合致しないという現象も以前から意識していました。そこに心筋の虚血の指標であるFFRが登場して、CAGがすべて正しいわけではないことを確信しました。
臨床の現場ではCAGとFFRの所見が異なることが大変多くあり、CAGだけで判断してしまうと思わぬピットフォールに陥りかねません。CAGとFFRを併せて考えなければ、本来不要なPCIを施行してしまうかもしれません。
FAME、FAMEII、DEFERtrialといったエビデンスから考えても、CAGを100%信頼してしまうのは危険です。

Physiology検査を日常診療で行う意義を教えてください

岐阜ハートセンターでは「見た目」で拡げるということはしていません。適応の見極めはCAGとCTだけでは行わず、Physiology検査も有効活用しています。FFRのカットオフ値は確立されたエビデンスです。当施設での治療はPCI、外科治療から薬物療法まで、病変に対して最適な治療ができていると思います。
「見た目」だけでPCIを施行するのは明らかに間違っています。狭窄を見つけるのではなく、虚血を見つけるべきだと私は考えています。すべての患者さんに対してPhysiology検査を行うわけではありませんが、中等度病変を見つけた時にPhysiology検査がいつでもすぐに行える体制にあることが重要だと考えています。

PCI数に変化はありましたか

FFRを導入するとPCI件数は若干減少するかもしれません。しかし、FFRを積極的に使用している当施設でも件数が激減したわけではありません。PCIが不要な症例がある一方、見逃している虚血も拾い上げられますので、カテ総数は微減程度と考えて良いのではないでしょうか。PWをうまく使うことで医療費も下がります。

PCIのストラテジーに変化はありましたか

FFRの測定で病変の鑑別ができますので、治療戦略が変わる可能性はあります。これは欧米のでータ、日本でのCVIT-DEFERのでータからも読み取ることができます。つまり、FFRを基準にして考えた治療戦略のほうが予後を改善する可能性が高いというエビデンスが積み重ねられているということですね。非常に重要です。CTOなど難しい治療をするというテクニックも確かに大切ですが、まずは血行再建をすべきかをしっかり見極めることが何よりも大切です。PCIテクニック、手技、ストラテジーはそのあとの話になります。狭窄の遠位の灌流圧が下がるということは血流が落ちているということですから、ステントで拡げて血行を再建する。灌流圧が落ちていなければ、血流は保たれているということになるので、ステント治療は不要でしょう。「見た目」はきれいになるかもしれないけれども、灌流圧が変わらないならばステントを置く意義はあるのでしょうか。FFRはそれを客観的に示す指標で、術者が経験した症例数にかかわらず最適な治療ができます。そのため、若い先生ほどFFRなどPhysiology検査に関して素直に受け入れているような気がします。われわれ循環器内科医の目標は狭窄をなくすことではなく、予後を良くすることです。それを意識すれば、しっかりとFFRで評価することの重要性が見えてくると思います。

Physiologyの指標であるFFRとiFRについて教えてください

iFRは血管抵抗を利用した指標で、最大充血を必要としないため、ワイヤーを入れてボタンを押すだけで測定が可能です。簡単に言うと、抵抗が高い血管は虚血を起こしやすいので、iFRが虚血の指標になりうるのです。FFRに比べて処置の時間が短く、血管に薬剤負荷をかけないので患者さんの不快感も軽減できます。
また、iFRはCFR(冠予備能)と似た指標という考え方があります。CFRは患者さんの予後を規定する大きな指標の一つです。PETやFlow wireなどから導き出されたでータからも、CFRが2.0以上なら極めて生命予後が良いということが分かっています。iFRがCFRとよくリンクしているというなら、iFRで患者さんの予後がある程度予測可能になるかもしれません。FLAIR trialなどの臨床研究の結果が待ち遠しいですね。

FFR測定のコツを教えてください

とにかく焦らないことです。例えばワイヤーの操作性は最先端PTCA用ワイヤーと比べると劣ります。そのため、同じように扱うとチップの圧センサーを壊してしまったりします。丁寧に操作すれば、通常のPCIの手技と何ら変わりません。時間にしても同様です。
FFRは患者さんの命にかかわる指標です。
最適治療に必要なプロセスであることを理解して、冷静なワイヤー操作を心掛けてください。最初は面倒に感じても、何回か繰り返すうちにFFRの測定が難しいという意識はなくなっていきます。あまり構えてしまわないことだと思います。

これからFFRを導入したいと考えている施設へのアドバイスはありますか

ぜひPhysiology検査を取り入れてください。患者さんの負担はぜロではないですが、受けるメリットのほうが明らかに大きいので、積極的にトライするべきです。何が何でも経験則に頼るのみでは、症状は取れても生命予後を改善することはできません。FFRはその部分に働く特効薬のようなツールだと考えてよいでしょう。特にLMT、LAD近位部は、CAGで狭窄が軽く見えていても実際は悪い病変であることが多く、FFRは大いに威力を発揮します。生命予後を考えた時に見逃しは厳禁です。
FFRは「おやっ」と思ったら計測すべき指標の一つです。日ごろから、「おやっ」と思う癖をつけておくことが何よりも大切です。

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