機能的虚血評価を PCI治療にいかす
【FRIENDS Live 2019 ランチョンセミナー5】

CATH LAB JIN Vol.2 No.3 別刷

座長:新家 俊郎先生(昭和大学医学部内科学講座 循環器内科学部門)
演者:工藤 崇先生(国立大学法人 長崎大学 原爆後障害医療研究所 原爆・ヒバクシャ医療部門 アイソトープ診断治療学研究分野)
演者:田中 信大先生(東京医科大学八王子医療センター 循環器内科)

平成30年(2018年)度診療報酬改定の結果、安定冠動脈疾患に対する待機的な経皮的冠動脈インターベンション(PCI)に際しては、その施行前に機能的虚血の原因病変を確認することが保険算定要件となり、心筋虚血評価を効果的に実施することの重要性が注目されている。本セミナーでは、長崎大学 工藤崇先生と東京医科大学八王子医療センター 田中信大先生をお招きし、機能的虚血評価における有用なツールや非侵襲的検査と侵襲的検査の併用の意義について、実際の検討結果や症例を交えつつ、ご講演いただいた。

記載された薬剤の使用にあたっては添付文書をご参照ください。

紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、すべての症例が同様な結果を示すわけではありません。

心臓核医学診断におけるcardioREPO®の臨床的有用性

工藤 崇 先生
国立大学法人 長崎大学 原爆後障害医療研究所
原爆・ヒバクシャ医療部門 アイソトープ診断治療学研究分野

心筋血流・機能解析プログラム cardioREPO®の概要

一般的に、画像の読影は労力を要するとともに、読影結果に偏りがみられるため1)、古くから画像解析ツールの活用が検討されてきた。心臓核医学領域におけるソフトウェア活用の流れを大きく変えたのは1995年のGermanoらによる報告である2)。心電図同期心筋血流SPECT解析ソフトウェアQGS(Quantitative Gated SPECT)の発表後、4DM(Corridor 4DM)やECTb(Emory Cardiac Toolbox)、Heart Risk View、pFASTなど、多くの心筋血流解析ソフトウェアが開発されてきた。cardioREPOもその一つであり、負荷心筋血流シンチグラフィ(負荷心筋シンチ)を用いた心筋血流異常の定量や各種心機能指標の算出に加え、人工ニューラルネットワーク(ANN)技術による正常異常分類などが可能である。
ANNは、入力情報をある一定の出力情報に変換する情報処理回路であり、入力に対する出力が正しくなかった場合、正解を学習することによって回路を改善させる機械学習の一つである。
cardioREPOは、熟練した心臓核医学読影医(熟練医)による日本人1,001例の読影結果が学習データベースとして搭載されており、負荷心筋シンチから抽出された多数の特徴量の入力により解析がなされ、その指標としてANN値が出力される(図1)。ANN値は、概ね0.5以上で異常を疑うことの妥当性が確認されている3)。PolarMapでは、負荷時画像における異常領域および差分画像(安静-負荷)における異常領域が表示される(図2)。 なお、心筋血流解析におけるANN活用の試みは古くから存在したが4)、当時はコンピュータの能力が不十分であり、演算パワーが不足していた。解析ソフトウェアに利用されるアルゴリズムとしては、Logit BoostやSupport Vector Machineなども知られているが、例えば、Logit Boostを適用した方法では、SPECTを用いた冠動脈疾患の診断能は、熟練医に匹敵するレベルに達したともいわれている5)

cardioREPO®による読影サポートの有用性

我々の施設における検討では、cardioREPOは熟練医と初心者による読影結果の差を縮める可能性が示されている。熟練医および初心者が、100例を超える負荷心筋シンチ結果を本ソフトウェアの使用の有無で、時間の間隔をあけてランダムに読影した結果についてSSS、SRSおよびSDSの各スコアを用いて比較した。本ソフトウェアの影響については、熟練医および初心者の両者とも、本ソフトウェアを使用することで虚血に対する判断が控えめになった。さらに、その程度は初心者のほうが大きい傾向にあった。また、本ソフトウェアを使用することで、初心者と熟練医の読影結果の差が縮小したが、初心者のほうが虚血を過小評価する傾向にあった。本ソフトウェアで異常と分類される頻度は、熟練者の判定より控えめになる傾向がある3)。このため、ソフトウェア判定を素直に受け取りやすい初心者の方が、熟練者よりも大きく影響を受けた可能性があることがその理由と推察された。
一方、正常異常分類の機能を搭載したソフトウェアを用いた検討6)では、負荷心筋シンチの読影において熟練医およびANN解析、共同読影による結果を比較し、ANN解析は日常診療での臨床読影のサポートや、診断品質の担保に役立つ可能性が示された。本検討では、1名の熟練医による単独読影とANN解析で心筋虚血の有無に関して判定に相違を認めた20例および一致した20例を抽出し、その40症例の各5領域(合計200領域)を、3名の心臓核医学医による共同読影の結果で再検討した。その結果、200領域中53領域において、単独読影と共同読影の判定に相違があった。その53領域中46領域(87%)は、単独読影およびANN解析の判定に相違があった領域、つまりANN解析と共同読影で見解が一致した領域であり、ほとんどが軽症例であった。このようにANN解析では、判断の分かれる症例画像において、共同読影に近い判定が得られる可能性が示唆された。

まとめ

cardioREPOによる負荷心筋シンチの読影サポートは、読影経験の浅い医師においては熟練医との読影差を縮小し、読影結果を熟練医に近づける可能 性がある。また、本ソフトウェアによるANN解析は、熟練医一人の単独読影よりも共同読影に近い結果をもたらす可能性があり(図3)、熟練医においては読影精度を高めるとともに、診断の標準化にもつながることが期待される。

Physiological PCIの現状と今後の展望

田中 信大 先生
東京医科大学八王子医療センター 循環器内科

PCIにおける Physiologyガイドの重要性

多枝冠動脈疾患例を対象としたFAME試験の成績が発表されて以降、本邦でもFFRガイドPCIが急速に広まった。本試験では、DES-PCI実施における冠 動脈造影(CAG)ガイドとFFRガイドのMACEなどが比較された。その結果、FFRによる機能的虚血の有無を確認し、虚血を認めた病変のみにPCIを施行することで、死亡、心筋梗塞、再血行再建などのイベント発生率は低減され、医療費も抑制されることが示された7,8)
FAME試験と同時期のLMTまたは3枝に病変を有する冠動脈疾患例を対象としたSYNTAX試験で、従来のCAGガイド下でDES-PCIと冠動脈バイパス術(CABG)が比較され、死亡、脳卒中、心筋梗塞、再血行再建などのイベント抑制におけるCABGのDES-PCIに対する優位性が示された9)。しかし、SYNTAXII試験では、SYNTAXスコアIIなどの戦略に加え、Physiologyガイドによる治療適応決定を行うことで、PCI後の予後はSYNTAX試験時より改善し、懸案であった再血行再建率も低下するに至った10)

適切なPCIは 世界的に求められている

米国では複数の学会が共同で、安定虚血性心疾患における冠動脈血行再建の適切性基準(AUC)を2009年に発表し、数回の改訂を行ってきた11)。AUCのキータームとしては、虚血の有無、虚血量、抗狭心症薬治療(内服)、症状の4項目が挙げられる。CABGの既往がない場合のAUCは、病変枝数や狭窄部位などで分類され、いずれも非侵襲的検査でのリスク評価()11)が基本となる。PCIが適切(appropriate)とされている主なケースを以下に示す。
<1枝病変>
部位やリスクによらず、2剤以上内服でも症状有
リスク評価未実施か判定不能だが、2剤以上内服で症状有、かつFFR≦0.8
LAD/dominant LCx近位部狭窄、中等度~高リスクで、1剤内服でも症状有
<2枝病変>
部位によらず、低~高リスクで2剤以上内服でも症状有、または中等度~高リスクで1剤内服でも症状有
リスク評価未実施か判定不能だが、1剤以上内服で症状有、かつ2枝がFFR≦0.8
症状有だが未治療で、LAD近位部狭窄で糖尿病を合併せず、中等度~高リスク

3枝病変では、さらに病態の複雑性が勘案される。SYNTAXスコア≦22のときは、PCIが適切なケースは2枝病変の場合と概ね同様である。

実臨床では、薬物療法と症状に関する判断が難しいことも多いが、無症状でもFFR≦0.8の場合はAUC上“may be appropriate”とされており、虚血の 証明が非常に重要である。OMT後におけるPCI施行の有無による症状の変化を検討したORBITA試験では、PCIにより虚血を解除しても、PCIなしの場合と比較して運動耐容能の向上(図4)12)、またはCCS分類評価において有意差を認めず、必ずしもPCIがOMT以上に症状を改善するわけではないことが示された12)。一方、サブ解析では、術前のFFRおよびiFRは、予後に直結しうる負荷心エコー(壁運動異常)のスコア変化と有意な関連を認め、低値なほど負荷心エコーでの改善が大きく、PCIの効果を認めた13)。このことから、適切なPCI施行におけるFFRおよびiFR評価の重要性が示唆される。
本邦においても、平成30年度の診療報酬改定によりPCI施行時の保険算定要件が追加され、急性心筋梗塞/不安定狭心症以外の冠動脈疾患の一部では機能的検査による虚血の確認が必要となった。虚血性心疾患診断アルゴリズムでは、PCIのゲートキーパーとなる検査所見の一つとしてFFRが位置づけられる(図5)14)

負荷心筋シンチとFFRの併用が 効果的であった3枝病変

70歳代男性の労作性狭心症例を紹介する(図6)14)。負荷心筋シンチでは、前壁中隔に広範な虚血所見を認めた(図6-a)。CAGではLAD近位部に潰瘍性病変を伴う高度狭窄を認め(図6-b)、主な責任病変と考えられた。また、LCx高位側壁枝近位部に高度狭窄、RCA中間部に中等度狭窄を認めた(図6-b)。LAD領域の虚血が強く、他部位の虚血所見をマスクしている可能性を考え、LCx、RCAでFFRを計測した。結果、0.64、0.77であり(図6-c)、LADのPCI施行から回復後、これらに対してもPCI((LCxはDCB、RCAはステント留置)を行った。1年後、虚血領域は著明に縮小し(図6-d)、再狭窄も認めなかった(図6-e)。このように多枝病変では、CAGや負荷心筋シンチによる病変ごとの虚血評価に加え、FFR等による機能的重症度の評価が重要で、その実施が推奨される。

まとめ

近年、安定冠動脈疾患の治療においては、解剖学的狭窄度に加え、機能的虚血の評価に基づき、PCIの適切性を判断する必要性が広く認識されてきた。FFRは虚血の有無のみならず、虚血量など患者のリスクを反映し、非侵襲的評価との併用で貴重な付加的価値をもたらす。今後、さらに様々な虚血評価モダリティの特徴をいかした総合的評価を行うことが、虚血性心疾患の予後改善につながると考えられる。

文献

1)Slomka PJ et al. Expert Rev Med Devices. 2017; 14: 197-212.
2)Germano G et al. J Nucl Med. 1995; 36: 2138-2147.
3)Nakajima K et al. Circ J. 2015; 79: 1549-1556.
4)Fujita H et al. J Nucl Med. 1992; 33: 272-276.
5)Arsanjani R et al. J Nucl Cardiol. 2013; 20: 553-562.
6)Tagil K et al. Int J Cardiovasc Imaging. 2008; 24: 841-848.
7)Tonino PA et al. N Engl J Med. 2009; 360: 213-224.
8)Fearon WF et al. Circulation. 2010; 122: 2545-2550.
9)Serruys PW et al. N Engl J Med. 2009; 360: 961-972.
10)Escaned J et al. Eur Heart J. 2017: 38; 3124-3134.
11)Patel MR et al. J Am Coll Cardiol. 2017; 69: 2212-2241.
12)Al-Lamee R et al. Lancet. 2018; 391: 31-40.
13)Al-Lamee R et al. Circulation. 2018; 138: 1780-1792.
14)田中信大 編. PCIのための虚血評価 FFRスタンダードマニュアル. メジカルビュー社, 2019, 272p.

略語

ANN:Artificial Neural Network(人工ニューラルネットワーク)
AUC:Appropriate Use Criteria(適切性基準)
CABG:Coronary Artery Bypass Graf(t 冠動脈バイパス術)
CAG:Coronary Angiography(冠動脈造影)
CCS:Canadian Cardiovascular Society(カナダ心臓血管学会)
DCB:Drug Coated Balloon(薬剤被覆バルーン)
DES:Drug Eluting Sten(t 薬剤溶出性ステント)
FFR:Fractional Flow Reserve(冠血流予備量比)
iFR:instantaneous Wave-Free Ratio(瞬時冠内圧比)
LAD:Left Anterior Aescending Coronary Artery(左冠動脈前下行枝)
LCx:Lleft Circumflex Coronary Artery(左冠動脈回旋枝)
LMT:Left Main Trunk(左冠動脈主幹部)
MACE:Major Adverse Cardiovascular Events(主要心血管イベント)
OMT:Optimal Medical Therapy(至適薬物療法)
PCI:Percutaneous Coronary Intervention(経皮的冠動脈インターベンション)
POBA:Percutaneous Old Balloon Angioplasty(経皮的バルーン血管形成術)
RCA:Right Coronary Artery(右冠動脈)
SDS:Summed Differences Score(差分における欠損スコアの和)
SPECT:Single-Photon Emission Computed Tomography(単一光子放射断層撮影)
SRS:Summed Rest Score(安静時欠損スコアの和)
SSS:Summed Stress Score(負荷時欠損スコアの和)

※本コンテンツは企業協賛に基づいた執筆者個人の見解であり、FRIENDS Liveが掲載内容を保証するものではございません。
本会として掲載内容に関しての責任は負い兼ねますのでご了承ください。

メニュー

医療従事者確認

当ページは、医療向け情報を含んでおります。
医療関係者の方々への情報提供を目的としており、
一般の方々への情報提供を目的としたものではございませんので、
ご理解くださいますようお願い申し上げます。

あなたは医療従事者ですか?