福岡山王病院は開院 6 年になる 200 床の総合病院で、循環器センターとハートリズムセンター を 2 本の柱とした心疾患治療を行っている。ハートリズムセンターでは主にカテーテルアブレー ションを、横井宏佳先生がセンター長を務める循環器センターでは PCI を扱う。横井先生が着任 するまで PCI に関しては、ほぼゼロスタートだった福岡山王病院ではあったが、着任後わずか 1 年で年間 250 症例(EVT 含む)を扱うようになった。横井先生は PCCI(percutaneous comprehensive coronary intervention)という考え方を提唱しており、それには physiological evaluation が欠かせないという。

PCCIとは世界的な流れなのでしょうか

海外は良くも悪くも分業制で、高名 な Colombo 先生の DAPT 試験に対 する論説を読んでも彼らの考え方が表 れています。確かにステントのことだ け考えれば短い期間で抗血小板薬を中 止しても良いのかもしれませんが、日 本人ドクターは皆、治療した患者さん とずっと付き合っていくというスタン スで診療を行っています。ですから日 本は、PCCI を実行実現できる唯一の 国だと思います。PCCI は本当に必要 なところに必要な治療をするための考 え方です。留置するステントが多くなればなるだけステント血栓症のリスクは高まります。また、 動脈硬化のリスクを持つかぎり、遅発性のイベントは第 2 世代の DES でも起こるわけです。 BVS も出てきてはいますが、性能はまだ確立されていませんから、現段階では異物を体内に残 すことはできるだけ避けたほうが良いでしょう。そのためにも、まだ Physiology を導入して いないのなら、積極的に取り入れてほしいですね。Physiology は PCI において最も重要な指 標の 1 つなのですから。

Physiologyを導入するにあたって何かハードルがあるのでしょうか

日本で Physiology を取り入れている施設は 10~15%程度と言われていますから、普及して いるとは言い難い面はありますね。プレッシャーワイヤーはシビアな病変にクロスさせるのに難 渋する時があります。そこは確かに注意すべき点ですが、全体的に技術面では全く難しくありま せん。何か障害があるとすれば、Defer への恐怖や症例数減少への不安、造影で十分だという 発想、保険点数の問題だけです。保険点数の問題なら、診断カテのときに FFR/iFRを行うとい うのも 1 つかもしれません。
FFR-CT などの新しいモダリティも臨床応用に向かっていますが、克服すべき弱点もあるよう なので、今後に期待しています。

Physiologyを日常診療に取り入れようと思ったきっかけ

福岡山王病院では全症例に対して Physiology をやっていこうという姿勢で取り組んでいま す。PCI はデバイスの進化とともに進んできたわけですが、FAME 試験の「Physiology- guide で PCI を行うと心血管イベント(死亡と心筋梗塞)が 35%近くも減る」という結果は 衝撃的でした。その後 FAMEII試験など次々と出てくるエビデンスから、Angio-guide から Physiology-guide に変えることによって、PCI の予後が CABG に追いつける可能性を感じ ています。言うなれば、従来のプロダクトイノベーションからプロセスイノベーションへの変化 が予後改善につながる大きな因子になる可能性を感じたのです。

Physiology 検査で気を付けていることはありますか

Physiology-guided PCI は FFR/iFRのセットアップからデータのマネジメントまで含め て、コメディカルスタッフの協力なしではできません。ですから、FFR がスムーズにできるよう に普段からコメディカルスタッフにも訓練していただいています。 iFRは薬物負荷をしなくても虚血の評価ができる、より簡便な Physiology です。多枝病変 だと iFRのほうが薬剤負荷のない分、施行しやすいのは事実です。福岡山王病院では J-DEFINE 試験に参加していたのですが、試験の結果からみても iFRの数値には信頼が置けると考え ています。iFRは比較的新しい指標ですが、最近の海外からの報告も我々の臨床での感覚と相 関しているように感じます。DEFINE FLAIR 試験という FFR と iFRを比較する試験も進んでい て、今後は iFRのエビデンスが積み重ねられていくことになるでしょう。

所見と治療法は変わりますか

今までは狭ければ開けに行っていたわけですが、今は Physiology を使って、どこを開ける べきかを見定めて、やらないところを決めています。狭くても PCI をしないわけですよ。大き な発想の転換です。
私も含め、Angio-guide で PCI を行ってきたドクターにとって、今まで PCI を行っていた 病変を Defer することは恐怖です。しかし、DEFER 試験では、FFR 値が 0.75 以上だったらス テントを入れないほうが入れるよりも MACE が少ないというエビデンスが出ました。FAME 試 験でも、Defer した病変は年間 0.2%くらいしか心筋梗塞が発生していません。今こそ恐怖に打 ち勝ち、Physiology-guide で PCI を行うべきなのです。それでも大丈夫かという不安もあり ますので、現在、多施設研究の J-CONFIRM 試験を行い、その裏付けをとっています。

PCIの症例数は減りますか

結論を言うと、症例数は減りません。造影上では CABG の適応だった 3 枝病変の症例が、 Physiological にみれば 1 枝病変で PCI の適応になるケースがあります。また、LAD の近位部 は QCA の評価で 50% 以下でも FFR は 0.8 以下といった「リバースミスマッチ」が多いのです。 つまり、PCI をやらなくて良いと思っていた症例でむしろやらなければならないということがあるのです。このバランスを考えれば、PCI 数は減りません。

PCCIについて教えてください

PCCI は 1 病変だけをみるのではなく、患者さん 1 人 1 人を包括的にみてエビデンスと experience に基づいて治療方針を決めていく個別医療です。薬物治療(OMT:Optimal Med- ical Treatment)、CABG、PCI という三極が自己主張するのではなく、良いところを組み合 わせることで、PCI の予後成績を CABG と同等にしたいという考えからスタートしています。 PCI の予後が CABG に追いつくためには次のフェーズに入る必要があるのです。
PCI が PCCI になることで、今まで局所治療と言われていたものが患者さんの予後を規定す るものに変わります。そうすれば PCI 治療の意義が一段と高まると考えています。

具体的にはどのように行いますか

Physiology で治療が必要と判断した病変に、IVUS や OCT の Imaging-guide で Opti- mal にステントを植え込みます。そして、Defer した箇所のプラークを安定化させる OMT を しっかり施す。薬剤も含め、包括的に冠動脈全体を管理する。ステントの種類にこだわりを持っ て選んでいるように、薬剤にもこだわってプラークを抑え込んでいこうということです。そして、 薬の組み合わせはガイドラインに沿うだけにとどまらず、個々の患者さんのリスクに合わせて行 うべきです。Defer する病変とは何もしない病変ではなく、ステントの代わりに OMT という 別のインターベンション治療を施す病変とも言えます。これからインターベンション治療を担っ ていく先生方にはぜひこのような考え方で治療にあたっていただきたいと、切に思います。

PCCI の Comprehensive(包括的)とは患者さん全体の管理を指すのですね

包括的にはもう一つの意味も含めてあります。それは全身の血管をみて管理するということです。冠動脈にステントを入れることだけが我々の仕事だとするならそこまでしなくても良いと思 いますが、命を預かるからにはそれに応えられる最大限の努力をすべきだと思います。ただ、言 うは易し行うは難しで、1 人のドクターの力だけでできるものではないというのも分かっていま す。だからこそ、病院全体の取り組みとして全身血管をみる体制が重要です。患者さんも、そう した仕組みが機能している病院に集まるでしょう。PCCI を行っても主治医の負担が増えるわけ ではないので、取り入れることに障害があるとは思えません。

※本コンテンツは企業協賛に基づいた執筆者個人の見解であり、FRIENDS Liveが掲載内容を保証するものではございません。本会として掲載内容に関しての責任は負い兼ねますのでご了承ください。

メニュー

医療従事者確認

当ページは、医療向け情報を含んでおります。
医療関係者の方々への情報提供を目的としており、
一般の方々への情報提供を目的としたものではございませんので、
ご理解くださいますようお願い申し上げます。

あなたは医療従事者ですか?