iFRガイドストラテジーの治療予後成績-DEFINE FLAIRとiFR SWEDEHEARTスタディ-

Imperial College London 塩野 泰紹 先生

はじめに

冠動脈狭窄の生理学的診断法であるinstantaneous wave-free ratio (iFR) に関する大規模臨床試験、DEFINE FLAIRとiFRSWEDEHEARTが2017年3月にアメリカ 心臓病学会で報告され、それと同時にthe New England Journal of Medicine (NEJM)誌に掲載された (参考文献 1, 2)。また同日開催された日本循環器学会総会でも試験結果 が中継により報告された。これらの試験はiFRを冠動脈疾患 治療のガイドとして用いることの科学的根拠となる重要な試験である。本稿ではこれら臨床試験の紹介、試験が実施された経緯、そして我々の診療にどのように影響するかを考察する。

iFRとは何で、FFRと何が違うのか?

iFRは心臓カテーテル時にプレッシャーワイヤーを用いて 行う冠動脈狭窄の生理学的診断法である。同じプレッシャーワイヤーを用いて測定する冠動脈狭窄の生理学的診断法に心筋血流予備量比 (Fractional flow reserve: FFR) があり、これら2つは類似点が多い。しかしこれらが決定的に異なる点は、iFR が安静時に測定される指標であるのに対して、FFR はアデノシンなど冠拡張剤による心筋最大充血時に測定 される指標であることである。

そもそも FFRで薬剤による心筋最大充血誘発が必要であった理由は、そうすることで冠内圧から冠血流の推定を可能にするためであった。つまり、FFRでは冠内圧を測定するが本来FFRというのは冠血流を推定するための指標であり、通常の状態では冠内圧から冠血流を推定することは不可能と考えられていた。しかし冠微小循環抵抗が最低かつ一定の状態になる心筋最大充血時には冠内圧と冠血流の関係が直線相関するため、心筋最大充血を誘発することで冠内圧から冠血流の推定を可能にしていた。ところが通常の状態(安静時)でも 拡張期のwave-free periodと呼ばれる冠微小循環抵抗が一定かつ十分低下する特殊な時相においては、薬剤を投与しなくても冠内圧は冠血流を反映することが近年示された。この特性を用いて安静時の冠内圧から冠血流の推定を行う方法がiFRである。

iFR のこれまでのエビデンス

FFRは血行動態的有意狭窄を同定する際に最も診断能が高い方法だと報告されている。さらにFAME試験やFAMEII 試験においてFFRに基づいて冠血行再建を行うことで良好な 臨床成績に結びつくことが証明されており、欧州のガイドラインではClass Iで推奨されている。一方でiFRは、FFRと同等の高い診断能を有することがFFRを含む複数の虚血診断法との比較で検証されている。むしろ直接的な冠血流の評価 法である冠血流予備能 (CFVR)との相関では、iFRの方が FFRよりも優れるとの報告もある。したがって理論上はiFRに基づいて血行再建を行うことでFFRと同じく良好な臨床成績につながると推定できるが、その仮説はこれまで直接的に証明されていなかった。そこで、この仮説を検証する目的でDEFINEFLAIRおよびiFRSWEDEHEARTが実施された。

DEFINE FLAIRとiFR SWEDEHEARTの試験デザイン

DEFINEFLAIRとiFRSWEDEHEARTはともに多施設、前向き、無作為割付試験でiFRガイドの血行再建治療がFFRガイドの血行再建治療に対して非劣性であることを証明する試験である。

対象患者は安定狭心症と急性冠症候群 (生理学的診断の対象は非責任血管のみ)の両方が含まれ、基本的に冠動脈造影のみでは判定が困難で生理学的診断が必要とされる中等度 狭窄病変を有する患者がエントリーされている。試験エントリーされた患者はiFRガイド群もしくはFFRガイド群に無作為割付され、割付けられたiFRもしくはFFRどちらか一方のみを測定し、その結果に基づいて血行再建の適応が決定されている。この際に用いられたカットオフ値は、iFRは0.89、FFRは0.80で、カットオフ値以下の場合には経皮的 カテーテルインターベンション (PCI) もしくは冠動脈バイパス術 (CABG) による血行再建が実施され、カットオフ値よりも高い場合には血行再建が見送られた (図1)。

主要評価項目は両試験ともに1年時における死亡、非致死性 心筋梗塞、予定外の冠血行再建による複合エンドポイントで ある。その他、手技中の胸部不快感、手技時間、ステント血栓症、 再血行再建などが副次評価項目として評価されている。この 試験は非劣性試験であり、過去の研究に基づいて非劣性の マージンがそれぞれ3.4%、3.2%に設定され、サンプルサイズ は 2500人と 2000人に設定されている。

結果

患者背景はDEFINEFLAIRでは安定狭心症と急性冠症候群の割合が約80%と約20%、iFR SWEDEHEARTでは 約60%と約40%である。両試験ともに多枝病変が約40%、 糖尿病が約20-30%含まれている。病変および手技背景に 関して、iFRの平均値は0.91、FFRの平均値は0.82-0.83 で ある。両試験において患者1人あたり約1.5病変で生理学的評価が実施されているが、血行動態的有意狭窄と判定された病変の数は両試験ともにiFR群で有意差を持って少なくなっている。結果として冠血行再建の実施やPCIで用いられたステ ントの数がiFR群で少ない (表1)。

主要評価項目である一年の主要心血管イベントの発生率の差は両試験共に設定された非劣性マージン内に収まり、iFRガイドの血行再建はFFRガイドの血行再建に対して非劣性であることが証明された (図2)。

また主要評価項目を構成している、死亡 、非致死性心筋梗塞 、予定外の血行再建 、その他の副次評価項目である標的血管の再血行再建 、再狭窄 、ステント血栓症もその発生率に両群間で差がないことが示された (表2)。

それに加えて手技時間はiFR群の方がFFR群よりも短く、手技中の胸部不快感などの有害事象に関してiFR群ではFFR群よりも有意に少なかった(図3)。iFRSWEDEHEARTのサブグループ解析では安定狭心症 、急性冠症候群、糖尿病などの背景が異なる患者群においても、iFR群とFFR群の臨床成績に差は認められなかった。

考察

試験結果が臨床に与える影響

今回の試験結果はほぼ予測された通りの仮説が正しいことが証明されたので大きな驚きはないかもしれないが、臨床に与える影響は大きいと考えられる。両試験ともによく計画された試験デザインで、フォローアップ率が高く、2000人以上の十分なサンプル数があることに加えて、2つの独立したグループから主要評価項目だけでなく重要な副次評価項目までほぼ同じ結果が得られていることからデータの信憑性および普遍性は高く、iFRを血行再建の適応決定に用いる際の確固たる科学的根拠になると考える。これまで複数の研究でiFRの血行動態的有意狭窄を検出する診断能はFFRと同等であることが示されており、理論上はiFRを用いて血行再建の適応を決定することが可能とされていた。しかしガイドラインやエビデンスが重要視される風潮の中、これまではプレッシャーワイヤーを用いて冠動脈の生理学的評価をする際にあえてFFRではなくiFRのみで治療方針を決定することに臨床医であれば多少の抵抗感があったのではないだろうか。実際にiFRを測定する際にはFFRも同時に測定することが多く、判断に迷う場合は最終的にFFRの結果に基づいて治療方針を決定しているという声も多かったように思う。しかし今回の結果が示されたことによってこの抵抗感は払拭されるように思う。さらに大規模臨床試験は時として臨床の現実との乖離が問題視されることがあるが、今回の試験ではiFRSWEDEHEARTは北欧数カ国、DEFINEFLAIRは世界19カ国と様々な人種が含まれていること、日本の施設からも多くの患者がエントリーされていること、安定狭心症のみでなく急性冠症候群患者が含まれており特別な登録基準/除外基準が設定されていないこと、iFR、FFR値はそれぞれのカットオフ値あたりを中心に分布しており実臨床で生理学的評価が必要とされる患者が主に対象となっていることなどから、試験結果を実臨床に適応しやすいと考えられる。

iFRによるメリット

これらは非劣性試験であるが、iFRのFFRに対するアドバン テージも複数示されている。 一つ目に手技中の胸部不快感がiFRで少ない点が挙げられる (図3)。

この差はFFR測定時のアデノシンの副作用によると考えられる。アデノシンやアデノシン三リン酸(ATP)以外の代替薬を使うことで胸部不快感を回避することはできるかもしれないが、他の薬でも塩酸パパベリンの心室性不整脈などのように副作用が無いと断言できる薬はないため、薬剤なしで測定できるのであればそちらが望ましい。二つ目に手技時間の短縮もiFRの大きなメリットである。近年の心臓カテーテル検査を受ける患者は、多枝病変のことが多い。したがって複数回の生理学的診断が必要な患者では手技時間が短縮されるメリットはより大きいと考える。例えば術者が複数の病変に対して生理学的評価を実施することが望ましいと判断しても、FFRの場合、患者によっては長時間の手技や胸部不快感に耐えられないために生理学的評価が完遂できずに必要な検査の機会を逃してしまう可能性がある。実際にiFRSWEDEHEART試験では一患者あたりの生理学的評価の実施はiFRの方がFFRよりも多くなっている(表1)。したがってiFRでは必要な患者や病変に対して生理学的評価をより実施しやすくすることが期待できる。三つ目のメリットとして、iFRガイドではFFRガイドよりも不必要な血行再建を回避できる可能性が示された点である。iFR群とFFR群では評価した病変数は同等、もしくはiFR群で多くなっているにも関わらず血行動態的有意狭窄はiFR群で少なくなっている。結果として実施された血行再建数やステント数がiFR群で少ない。それでいて両群の臨床成績に差が無いことから、iFRではより適切に血行再建の適応病変を選択できる可能性が示された。この原因の一つはiFRとFFRが不一致になる病変の存在が考えられる。不一致になる病変はFFRが陽性(FFR≤0.80)であってもiFRは陰性(iFR≥0.90)の病変が多い。そしてこの病変ではより直接的な冠血流指標であるCFVRは陰性になると報告されており、FFRが陽性であったとしても血行再建の必要性が疑問視されている。今回の試験では、このような病変に対してiFR群では血行再建が見送られ、FFR群では血行再建が実施されたために両群での血行再建実施率やステント数の差につながった一要因として考えられる。四つ目に医療経済面のベネフィットがある。コストベネフィットに関する正確な数字はまだ示されていないが、iFR群では心筋最大充血を誘発する薬剤を必要としないこと、少ない血行再建、ステント数になっていることからコストベネフィットの点で優れることは明らかである。

今後何が予想され、何を期待するか?

今回のエビデンスレベルの高い2つの研究結果に基づいて、ガイドラインでiFRが推奨されるようになることが期待されている。そしておそらくガイドラインの改定を待つ前に、これまでFFRで評価されていた症例の一部がiFRで評価されるようになることが予想される。またiFRが提唱された目的の一つに冠動脈病変の生理学的評価をより簡便、低侵襲にすることで、その評価方法に関わらず生理学的評価に基づく冠血行再建を拡大させることが掲げられていた。したがって今回の結果を受けてFFRからiFRへのスイッチのみでなく、生理学的虚血診断評価に基づく冠血行再建がこれまで以上に広く適応され、そのベネフィットを受ける患者が増えることが望ましいと考える。

参考文献

1. Davies JE, Sen S, Dehbi H-M, et al. Use of the instantaneous wave-free ratio or fractional ow reserve in PCI. N Engl J Med 2017; 376:1824-1834.
2. Götberg M, Christiansen EH, Gudmundsdottir IJ, et.al. Instantaneous Wave-free Ratio versus Fractional Flow Reserve to Guide PCI. N Engl J Med 2017; 376:1813-1823.

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