レポート Hospital Clínico San Carlos, Spain 後藤 園香先生
監修 戸田中央総合病院 心臓血管センター内科 中山 雅文先生
はじめに
冠安定狭心症(Stable Coronary Disease: SCD)患者に対する冠血流予備量比(Fractional Flow Reserve: FFR)の有用性は既にエビデンスとして確立してきている。瞬時血流予備量比(Instantaneous wave-Free Ratio: iFR)に関しても2017年3月にDEFINE FLAIR 試験1とiFR SWEDEHEART 試験2 というそれぞれ2000人以上の患者が登録された大規模なランダマイズ化された非劣性試験で、1年間の主要心血管イベント[Major Adverse Cardiac Events: MACE( 死亡、非致死性心筋梗塞、予定外の血行再建)] 発生率でiFRはFFRに対して非劣性であることが証明され、同時にThe New England Journal of Medicineに掲載された。
これまでに急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome:ACS)患者群の非責任病変のFFRの有用性を検討した比較的小規模の研究はあるが、いずれもDefer群でのMACE発生率がSCD患者群と比較して高い結果が多く、その安全性について疑問視される意見もある。また、iFRに関してはACS患者群の非責任病変の安全性に対する大規模な報告はない。
(左から)中山先生、Escaned先生、後藤先生、Hospital Clínico San Carlosにて
iFRとFFRでのACS 患者の非責任病変におけるDefer群の安全性
今回、5月にパリで行われたEuroPCR 2017のLatebreaking trials にてJavier Escaned先生(Hospital Clínico San Carlos,Spain)が、DEFINE FLAIR試験とiFR SWEDEHEART試験を合わせたサブ解析(総登録患者数4529人)として、FFR、iFRでの評価におけるACS患者群の非責任病変とSCD患者群のMACE発生率について検討し、報告した3。
方法
DEFINE FLAIRとiFR SWEDEHEARTはそれぞれ類似したプロトコールで試験が実施され、登録患者をiFR群とFFR群に1:1にランダマイズし、それぞれのカットオフ値に従いPCIの適否を判断し、現在1年間のMACE発生率が報告されている。今回のサブ解析ではFFR>0.80、iFR>0.89でDeferされた2130人をiFR群、FFR群でそれぞれSCD患者群とACS患者群に分け、それぞれのMACE発生率を比較している(図1-A、図1-B)。
結果
FFR群とiFR群を総合したデータにおいて、FFR≦0.80、iFR≦ 0.89で治療を行った群ではACS患者群とSCD患者群でMACE発生率に差がなかった(図2)。
一方、Defer群では全体としてはiFR群、FFR群でMACE 発生率に有意な差はなかったが(図3)、ACS患者群(5.9%) の方がSCD患者群(3.6%)よりMACE発生率が高かった(図4)。
またDefer群におけるMACE発生率はFFR群ではACS患者群でSCD患者群より高かったものの、iFR群では同等であった(図5)。
発表では、ACS患者群かつDefer群のMACE発生率がSCD患者群と比べて高いこと、それに加えて、Defer群はiFR群、FFR群とも1000人以上にも上るが、ともにACS患者群がSCD患者群と比べてMACE発生率が高いもののFFR群のみで有意差がついたことが報告された。
考察
ACS患者の非責任病変のFFRでの評価の有用性に関しては、ST上昇型心筋梗塞、非ST上昇型心筋梗塞、不安定狭心症などにも分け検討もされてきているが、iFRに関するデータはこれまで十分ではなかった。今回の発表のような有用なデータの積み重ねにより、iFR / FFRの適応や有用性、それぞれの結果の乖離や使い分けなどを示していくことが、より安全な冠動脈治療につながっていくものではないかと考える。
参考文献
1. Davies JE, Sen S, Dehbi H-M, et al. Use of the instantaneous wave-free ratio or fractional ow reserve in PCI. N Engl J Med 2017; 376:1824-1834.
2. Götberg M, Christiansen EH, Gudmundsdottir IJ, et.al. Instantaneous Wave-free Ratio versus Fractional Flow Reserve to Guide PCI. N Engl J Med 2017; 376:1813-1823.
3. Escaned J, et al. EuroPCR 2017.
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