【座談会企画】iFRはPhysiology guideによる安全な診断の普及に どのように貢献するか

京都大学医学部 循環器内科 教授 木村 剛先生
岐阜ハートセンター院長 松尾 仁司先生
和歌山県立医科大学 循環器内科 助教 塩野 泰紹先生

座談会動画

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(左から)塩野先生、松尾先生、木村先生

QA:1 Physiology guideのPCIは現状どれくらい浸透しているか?
また浸透すべきか?

木村:松尾先生、現状のphysiology ガイドのPCI がどういう状況になっているか?どのぐらい一般臨床の中に浸透しているか?そして本来どうあるべきか?
そのあたりのところをコメント頂けますか。

松尾:今の日本の現状からお話ししますと、プレッシャーワイヤーの使用本数は年々増えています。
昨年度の総PCI 数とプレッシャーワイヤーを使用した数の比が大体25%弱ではないかと思います。この数字が本来使われるべき症例に十分使われていると考えていいか?に関しては、もちろんプレッシャーワイヤーを使わなくていい病変、例えばACS(Acute Coronary Syndrome: 急性冠症候群)のculprit lesion(責任病変)やCTOの病変等、いろいろなケースがあります。そのような症例を除くと、マキシマムに使って大体50%程度になるのではないかと言われていますので、まだ浸透率は十分ではないと考えていいのかと思います。
今50%と言いましたが、日本のPCIの数は欧米と少し事情が違い、ACSとstable(Stable Coronary Disease: 安定狭心症)ではstableのほうがかなり高いです。欧米の目算では大体50%と言われていますので、日本ではもう少し高い確率で行われても良いのではないかと思います。

木村:そうですね。米国の場合は、stable CAD(Stable Coronary Artery Disease: 安定冠動脈疾患)に対する血行再建はかなりハードルが高く、規制はないですが、そういった風潮があります。ACSとstable CADの比率は日本と米国で逆転していますね。特に日本は冠動脈CTの普及率が高く、stableというだけではなく無症候性の患者さんに対するPCIの比率がかなり高いので、そこで何らかの生理学的な評価がされないと、本当にやみくもにPCIをしてしまうことになりかねないと思います。先生のおっしゃるとおりだと思います。

QA:2 iFR単独による評価で診断を進めても良いか?

木村:DEFINE FLAIRとiFR Swedeheartという2つの研究でiFRが臨床的なツールとしてFFRに劣らないということが示されたわけですが、今後はiFR単独で診断を進めていっても良いと考えてよろしいでしょうか。

塩野:DEFINE FLAIRは非常にデータのクオリティーが高いスタディです。私がImperial Collage Londonに留学しているときに、Imperial のClinical Trial Unitのメンバーと一緒に、日本のDEFINE FLAIRの参加施設に訪問させていただく機会を頂きました。
このスタディのリスクの高さから、全症例の20%をレビューするということでした。例えば、抗がん剤等のリスクが高いスタディは100%レビューしないといけないのですが、DEFINE FLAIRは20%です。それでも2,500例のうちの20%がレビューされているのでクオリティーがかなり高いと思います。
なおかつ圧の波形を全部アップロードして、圧波形がきちんと取れているか、ドリフトがないか、ウェッジしていないか等、クオリティーの低い状態で評価されたものがないかということも全部コアラボでチェックしています。そういった点からDEFINE FLAIRはかなりクオリティーが高くて信頼のできるデータであり、n(登録症例数)が圧倒的に大きい点も評価に値します。
また、(DEFINE FLAIRとiFR Swedeheartという)同じ形態のスタディが違う独立した施設から、同時期に同じような結果が出たことを考えると、これはもうかなり真実に近い結果であろうと思います。そのため、エビデンスレベルとして、かなり信頼し得るデータだと考えています。
ただ、やはり臨床ではフィーリングというものがありますので、長年FFRを用いてきた我々にとっては、これがそのままダイレクトに「今日からFFRからiFRに変わります」とはなかなかならなくて、実際の感覚が臨床のエビデンスレベルに追い付いていくのに少し時間がかかるのではないかと考えています。

QA:3 実際の臨床ではiFR単独評価でdeferの判断を下すのは難しいのではないか?

塩野:iFRとFFRを共に測定した症例で、一部、discrepancy(診断の不一致)が発生し、FFRが低いにもかかわらず、CFRを測ると高い症例があります。圧を測っていますけれども、iFRはCFRに近く血流を測る指標です。こういう症例の場合、ダイレクトに血流を測っているCFR値は高いわけですから、虚血の観点からは治療が必要ないと思います。
ただ、今回の(DEFINE FLAIR及びiFR Swedeheartの)スタディデザインでは両方を測った症例がありませんので、discrepancyを起こした症例がどうなったかというデータは示されておらず、推測にすぎないわけです。そこに関してはきちんとした答えがないため、実際の臨床では、iFRの値が信用できなければFFRも測って総合的に判断して治療を決めているというのが現状だと思います。
このような症例ははっきりさせないといけないので、現在また違うスタディが走っています。discrepancyを起こす症例にCFRを追加して、FFR値は低いけれどもCFR値が保たれているような症例は治療が必要なのか、PCI 群とPCIをしない群に分けた研究がヨーロッパを中心として走っています(図1)。このような臨床のアウトカムデータが出てくればdiscrepancyを起こす病変に対する治療方針がよりはっきりしてくるのではないかと考えます。

QA:4 海外ではiFR単独で評価する施設が増えてきたが、今後日本でもそうなるのか?

松尾:増えてきている流れはあると思います。先日、東北の先生とお話しする機会がありました。その先生の施設では、スタッフの数が少なくて、お薬を用意してもらったり負荷したりというのはプラクティカルにかなりのストレスで、それならもうアンギオを見てやってしまえばいいというような感じになるわけです。iFRはそれ(薬剤負荷)が必要ないので、ワイヤーさえ入れればいいのです。その先生は完全にresting indexであるiFRだけで全て判断して、iFRで数値が悪ければ治療、悪くなければ治療しないという形でやっていると言っていました。
そのような先生方も少しずつ増えてきているので、おそらく日本の中でも少しずつ増えてきているのではないかと思います。そのような先生がどのくらいいるかは、まだ分かりませんが、きっとそういう施設が今後どんどん増えてくるのではないかと思います。

QA:5 FFRと比較したiFRのメリットは?

木村:本当にhyperemia が達成できているかが、アデノシン等を投与したときに完全には確信できないので、薬剤負荷が不要であるというのは結構大きなメリットかなと思うのですが、塩野先生、いかがでしょうか。

塩野:そのとおりだと思います。日本では保険適用の問題でATPが代替薬として用いられますが、特に末梢から静注するような場合は“揺らぎ”があったりしますのでhyperemia の確証が得られない。そうなると、投与量の追加や塩酸パパベリンやATPの冠注を追加していると思います。
例えば塩酸パパベリンであれば、Torsades de Pointesだとか、そういった重症な不整脈の副作用があります。副作用がない薬は基本的にないと思いますので、drug-freeで、なおかつ信頼性があるのであれば、それに勝るものはないと思います。iFRはそういった面でかなりアドバンテージがあるのではないかと思います。

QA:6 虚血のある患者におけるPhysiology評価は?

木村:微小血管にアデノシン等の拡張薬を入れるということに関して、時間の問題もありますが、僕は個人的に虚血のある患者さんに血圧を下げるというのはどうも心配です。実際に大きな合併症を起こしたことはそれほどないのですが、やはりそれは非常に大きなポイントなのではないかと思います。いかがでしょうか。

松尾:全くそのとおりです。maximum hyperemiaを得ようとしてアデノシンを増量するということも僕らのプラクティスの中では時々あります。そういうときに、血圧が低くなると逆にFFRの値がきちんと表現できなくなったりしますから、その正確性にも問題が出てきます。患者さん自身もしんどいという症状が出てきます。
iFRの場合にはそういう症状はほとんど起きませんから、患者さんのストレスも減りますし、僕らもhyperemiaになっているかどうかを悩まずに済むという点で非常に簡便な方法だと思います。

木村:そうですね。術中に患者さんが不快に感じられるというのは患者さんのPCI に対する印象を大きく左右するので、非常に大事だと思います。

QA:7 iFRを用いた時のtandem lesionの評価は?

木村:アデノシン等を使った場合にtandem lesion 評価をする時はプルバックをして、圧格差が大きい箇所を特定して順番に治療していくと思うのですが、iFRを用いた場合にはtandem lesion の評価はどのような形になるのでしょうか。

松尾:FFRでtandem lesion を評価しようとすると、それぞれの病変の重症度を計算するのは極めて複雑な公式を使うことになります。ウェッジプレッシャーの計測が必要で、治療前に正確な数字をプルバックカーブから得るのは難しく、臨床上では圧格差の大きいほうの病変をまず治療して、その後もう一度計測して、FFRが虚血閾値よりも低ければもう一カ所の病変も治療する、低くなければdefer するというのが、FFRガイドのtandem lesion の治療の仕方です(図2)。
iFRは安静時の血流の状態で評価していますので、auto-regulation(自己調節機能)が掛かります(図3)。そのため、例えば2つの病変の一方を治療しても、もう一方の圧格差は基本、治療する前後で変わらないということが言えます(図4)。治療前のプルバックカーブから、1 つ目の病変を治療したときにもう片方のiFRが幾つになるかがわかります。また、複数の病変を治療しないと虚血閾値の0.9より上にいかない等、治療前のプルバックだけで分かるので、最初の診断の時に治療のプランニングができるという大きなメリットがあります。
また、SyncVisionという素晴らしいソフトウエアが開発されており、アンギオデータとPhysiology データのCo-registration ができます(図5)。どの病変で幾つのiFRのステップアップがあるのかをプルバックとアンギオから誰でも分かるソフトウエアです。これは使い勝手が非常に良く、これもiFRの1 つの大きなメリットだと思います。

QA:8 病変のdistalでiFRを測って、その連続で引き抜いている間のiFRを見ていくのか?

木村:もう一度確認させていただくと、distal でiFRを測りますよね。連続で引き抜いている間の、表示されているiFRの数値を見ていくということなのですか。

松尾:プルバックを開始するとdistal のiFRの数字が出ます。その後プルバックをしますと、プルバックカーブが描けます。その間に同時に透視をずっと踏んでいると、センサーの位置がアンギオ上のどこにあるかをソフトウエアが認識して、血管の狭窄前後でiFRの値が幾つステップアップするかを非常に見やすい形で出してくれます。
1つのドットを0.01のiFRステップアップとして血管に沿って視覚的に非常に美しく示してくれることができるため、どこの場所を治療すればいいのかということが一目で分かります。簡単で大変素晴らしいソフトウエアです。今後どんどん広がっていきますと、治療戦略を決めるために多くの人が使うようになっていくのではないかと僕は期待しています。

QA:9 iFRの方がrevascularizationの頻度が低いのは一致した所見と考えて良いか?

木村:iFRガイドのほうがrevascularizationの頻度は低いということは共通した所見で、原理から言ってもうなずける結果と考えてよろしいですか。

塩野:そうだと思います。iFRで治療方針を決めたほうが約5%PCIが少なくなるのが示されています(図6)。

QA:10 今後、急性期にもiFRを行うべきなのか?

木村:今の日本でのACS多枝疾患の評価、それから今後もっとiFRなどを急性期にやっていくべきなのか、松尾先生、そのあたりのところはいかがでしょうか。

松尾:DEFINE-FLAIR及びiFR Swedeheartの合算データを見るとiFRがACSのrisk stratification(重症度分類)にいいという可能性があるということを示しています(図7)。
急性期に薬剤負荷をするというのは極めてやりにくいですよね。Culprit を治療した後に計測するにしても、アデノシンを使ってまた血圧が下がるというのはできたら避けたいという状況にあります。resting indexのほうが、non-culprit (非責任病変)を評価する際には非常にいいかなと思います。
PRAMIトライアルのようにACSの場合はculpritもnon-culpritも全部治療したほうが良いというデータが出てきていますし、どこまでは治療しても良いのかという話になったときに、iFRの方法論は極めていい情報を与えてくれる可能性が高いです。
Physiology は、狭窄前後の圧格差を見ています。狭窄のdistal のperfusion pressure(潅流圧)という大切な情報を示してくれています。下がっているような病変であれば、上げてあげればperfusionが増える可能性があり、急性期にきちんと治療した方が良いです。もしも下がっていなければ、末梢への循環はある程度維持されており、少なくとも安静時の血流量はきちんと維持されているということがいえます。それであれば治療する必要がないのです。
理論的にもiFRを急性期に使うというのは極めて理にかなっている方法論だと思います。

木村:塩野先生、いかがでしょうか。

塩野:松尾先生と基本的には同じ意見です。多分PRAMIトライアルが出る前に私がカテーテルを習った当時は、ACSの患者さんはculpritを治して、他の病変があっても基本的には治療せず、同時にやるなどということはあってはいけないぐらいの感じで教えられました。PRAMIトライアルが出てからは、nonculpritであってもやっていたほうが成績が良くなるのではないかということで、注目を浴びているところだと思います。
PRAMIトライアルではACSのnon-culprit lesionに対して、アンギオ上の50%以上の狭窄は全てPCIを行うというようなスタディプロトコールだったと思いますが、それはFAMEスタディ等と照らし合わせるとちょっと矛盾するところがあります。その後、non-culprit をFFRで評価したらどうかというスタディがされており、現在ではやはりFFRで評価したほうがいいだろうというような流れになってきていると思います。どんな薬剤であってもAMIの急性期に投与するのはリスクがありますので、iFRで評価してdecision-makingをするということはかなり有効な方法だと思います。
もしそこですぐに治療しなくても、もう一回患者さんをカテ台に上げるかべきか、入院中にもう一回カテをするかどうかいうdecision-makingにもつながりますので、iFRによって短時間で評価できるのであれば患者さんにとってもメリットが大きいのではないかと考えています。

木村:そうですね。ACS症例でFFRができないと、多枝疾患でボーダーラインの病変がある患者さんは入院中にもう一回カテをしましょうということになります。実際にカテをして、FFRをしたらdeferになると、何か2回も不必要なカテをしてしまったということになるので、iFRを急性期に行うのは、非常にattractiveな方法のように思われますね。ありがとうございます。

QA:11 日本におけるiFRの将来、展望は?

松尾:現在ではFFR-CT 等、FFRに基づいていろいろな考え方が組み立てられています。これをiFR-basedで考える、例えばiFR-CTという言葉があるかどうか分かりませんが、そのような話もでてきたら面白そうですね。
また、韓国の先生が研究されているfunctional SYNTAX scoreというFFRに基づいて機能的なリスクを評価するSYNTAXスコアがあります。iFR-basedでのSYNTAXスコアの意味も研究されています。
そういう意味では、iFRという指標に基づいて物事を考えていこうという風潮はどんどん出てきていて、データがこれからどんどん出てくればさらにiFRはどんどん前に出てくるのではないかと思いますね。そうするとますますiFRに基づく治療やdecision-making が広がってくる可能性が高いのかと、僕自身はそういうふうに思っています。
(2017年10月26日 CCT会場にて)

参考文献

1. Davies JE, et al. Use of the instantaneous wave-free ratio or fractional ow reserve in PCI. N Engl J Med 2017; 376:1824-18034.
2. Götberg M, et.al. Instantaneous wave-free ratio versus fractional ow reserve to guide PCI. N Engl J Med 2017; 376:1813-1823.
3. Escaned J, et al. EuroPCR 2017.
4. Götberg M, et.al. The evolving future of instanteous wave-free ratio and fractioal ow reserve. JACC 2017; 70(11):1379-1402
5. Wald DS, et al. Randomized trial of preventive angioplasty in myocardial infarction. N Engl J Med 2013; 369(12):1115-1123.

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