iFR Coregistration-guided Revascularization今後の展開 ― International iFR GRADIENT Registryの研究結果から ー

福山循環器病院 循環器内科 医長
Faculty, Advances in Coronary Physiology, International Centre for Circulatory Health, Imperial College London
iFR GRADIENT Registry 研究プロトコル作成者 菊田 雄悦 先生

Dr M Kernが予想するPCIの未来

Circulationなどの編集委員を務め、心臓カテーテル検査治療の著作があるDr M Kernは、International iFR GRADIENT Registry paperのEditorial Commentに、「iFR PullbackをAngio画像にCoregistrationしPCI planningすることは、近年のInterventional Physiology領域で最も大きな進歩の一つである」と評している。1
iFRはHyperemia不要のため魅力的なFFRの代替指標ではあるが、懐疑的であったと今回も著す同氏は、これまで重要なiFR論文が出る度に強い疑問を投げかけてきた。2
なぜ今回は「PCI の将来」とまで言うのか、本論文の結果及びTandem/diffuse lesionsにおけるFFR及びiFR Guidanceの違いについて簡単にご紹介させて頂きたい。

このFirst-in-men Global Multicenter studyによって、実臨床で確かめたかった2つのこと

製品化前、個人的なコンピュータ解析を用いたSingle center studyにより、iFR PullbackにおけるiFR Gradient (ΔiFR) がStentingによって消失すると考えて、PCI後のiFRを予測することの可能性が示されていた。3 しかし一般のカテーテル室で実際のPCIに応用出来るかについては示されていなかった。本研究は製品化されたiFR Scout Pullbackを用いたThe First-in-men International Multicenter Studyとなるが、研究目的は
1)病変のiFR Gradient (ΔiFR) が消失すると仮定したPCI後のiFR予測値は、実測値に近いか
2)Angio Guidanceに対して、ΔiFRの情報を知ることで、どれほど術者のPCI procedureに影響を与えるか

を調べることであった (図1)。4 参加国はイギリス、スペイン、ドイツ、フランス、ベルギー、イタリア、オランダ、チェコ、南アフリカ、日本 (国内では岐阜ハートセンター、戸田中央総合病院、済生会横浜東部病院、仙台厚生病院、聖路加国際病院、福山循環器病院の6施設) 計19施設から症例登録頂きFFRやiFRといった圧指標Pullback 研究では最大 (159 patients, 168 vessels) となった (表1)。

ΔiFRによる治療後iFRの予測法と、その正確度

Stentingによって、治療された病変でのiFR圧較差ΔiFRが消失するという補正を用いない予測方法を示す(図1)。またiFR予測値 (iFRpred) とiFR実測値 (iFRobs)のScatterplot及びBland-Altman解析を示す( 図2)。iFR予測値はiFR実測値と強い相関を示し(r=0.73,p<0.001)、予測値と実測値の違いは0.011±0.004となり、誤差1.4±0.5%であった (128patients, 134vessels)。

表1  Patient demographics

図1 Angioによる病変検出とiFR PullbackによるPhysiological lesion significanceの評価

Post-PCI iFRの予測法を示す。各病変におけるiFR Gradient (ΔiFR) を計測して、Stentingする部分のΔiFRが消失すると考え、治療後iFRを予測する。

図2 Post-PCI iFRの予測正確度評価

(A) iFRpred及びiFRobsのScatterplot
(B) Bland-Altman解析

FFR Pullbackによる補正を加えた予測正確度と、iFR Pullbackとの比較

Dr M Kernが認めているように、iFR Pullbackによる予測誤差は1.4% (N=134)、FFR Pullbackによる補正を加えた予測による誤差4-11% (N=15, N=20, N=32) を上回っていた。4,5,6 これまで2病変での予測が多く報告されてきたが、今回のiFR Pullback研究ではあらゆる病変数を一度に治療する予測を評価した ( 図3)。一度に治療した病変数は表2のPost-iFR Decisionに示す。
なぜFFRでは補正が必要で、iFRでは不要なのか。背景にはFFR iFR計測時の冠血流が関わっている。FFR計測中にはHyperemiaとしており、PCIによって最もΔPの大きい病変を治療してHyperemic flowが大幅に改善することになる。7 これによりStentingしていないプラークでのΔPは有意に上昇し、補正を行わない単純なFFRの治療後予測は11%の誤差を生じるとDr Pijlsは報告している。6 またPCI前にバルーンでWedge pressureと、遠位部、中間部、及び近位部の圧をそれぞれ計測し、下記の予測式に代入することで予測値が得られる。

図3 PCI前後におけるFFR及びiFRの計測と、その治療後予測に与える影響

(A)PCI によってHyperemic flowは大幅に上昇するため、残存するあらゆるプラークでのHyperemic ΔPはPCI 前後で有意に増加する。このため補正しない平均予測誤差は11%となる。
(B)PCI によってRest flowはほとんど上昇しないため、残存するプラークでのiFR Gradient (ΔiFR) は僅かな上昇に留まる。このため補正しない平均予測誤差は1.4%となる。

Dr M Kernはこの予測法を実際のカテーテル室で日常臨床に用いられることは稀であるとしている。またこの補正法による予測値と実測値の差の平均は4%、誤差平均は0.031であった。6 これに対してiFRではプログラミングによるSingle center研究と、実際の製品化されたiFR Scout Pullbackによる本研究があるが、いずれも予測値の補正をしていない。3,4 またその誤差平均はいずれも2%以下であり、FFRによる予測と比較して、iFRでは統計学的有意に誤差が減少していた。iFRを計測中には安静時であるため、あらゆる病変において約19cm/sの血流が得られている。そしてPCIを行った後でもほぼ変わりない血流が得られている。7 一定のRest flowが病変を通ることによって、あらゆる残存病変における圧較差は平均0.011±0.004だけの上昇に留まった。4 このためにあらゆる病変数、病変部位のStentingに対して補正不要のPCI後iFR予測が可能となり、今回それが実臨床で確認されたこととなる。
これまでTandem lesionsモデルは治療される可能性のある2病変にのみプラークが存在するものであった。2ヶ所に限らず、中等度までの冠動脈プラークがあらゆる分布パターンで冠血流を阻害するモデルにおけるiFR Gradientの臨床的意味についての説明を図3 に投入したかった。Editorial commentにおいて「Serial lesionsのみならず、おそらく全ての冠動脈病変において、我々がどのようにPCIをすべきか新しい思考段階を本研究は提示した」とされており、我々の考えが健全で激しい議論の過程において、ある程度伝わったものと考えている。

「安定した」iFR / Rest flowと「変動幅の大きい」FFR / Hyperemic flow

本論文が掲載されるまでに最も強い反論を受けたのはこの表現だが、最終的にはDr M Kernも認めるところとなった。Dr L GouldがCoronary Physiologyを動物実験で詳述し、Dr SS Nijjer がHuman dataでも示した通り、40-90%狭窄範囲においては、Rest flowがほぼ一定に保たれる一方、Hyperemic flowは2-3倍も変化し、変化幅も予測が難しい。8,9 あるプラークのPhysiological severityを判定する際に、iFRはRest flowがほぼ一定の条件で計測されるため、ある一定の病変部圧較差ΔiFR (Resting ΔP) として評価される。これに対してFFRでは、Hyperemic flowがPCIの過程で大きく改善する中でFFRを計測するために、あるPhysiological severityに対して、様々な病変部圧較差Hyperemic ΔPとして評価を下すことになる。このためiFR / Rest flowは「安定」しており、FFR / Hyperemic flowは「変動幅が大き」く予測困難でもあるという主張内容を、我々は数回の査読中変えることなく、この論文原稿がアクセプトされている。

iFR Gradientを計測することで、31%の症例でPCI procedureが変更された

これまでFFRを計測することによって、患者に対する治療計画が実に3割で変更されるということが示されていた。10 このためiFR PullbackがDecision makingに与える影響について、本研究でも解析した。一つの血管に対するiFR Pullback dataを術者が知ることによって、Angio情報単独で決定したPCI Procedureと比べて病変数は31%の血管で変更された (表2,図4)。また病変長も変化し、全体としては病変数、病変長ともに有意に減少した (図 4,5)。この結果からiFR Pullbackを行うことにより、医療費や手技合併症の減少が示唆された。

表2  iFR Pullback前後におけるFlow Limiting Coronary Lesionsの分布

0は対象冠動脈において、significant flow limiting epicardial lesions が存在しないことを示す。太字はAngioとiFR Pullback で病変評価が不変であったことを意味する。

図4 iFR Pullback前後での病変数比較

(A)iFR Pullback計測結果を知ることで、31%の症例でAngio単独情報による評価から、病変数評価を変更した。全体としてiFR Pullbackは病変数を有意に減少させた。
(B)LADと比べて、LCx及びRCAではiFR Pullbackによる病変数の変更が有意に多かった。

図5 iFR Pullback前後での病変長比較

(A)iFR Pullback計測結果を知ることで、Angio単独情報による評価から、病変長評価が変更された症例が多かった。全体としてiFR Pullbackは病変長を有意に減少させた。
(B)LADと比べて、RCAではiFR Pullbackによる病変長の変更が有意に多かった。

Resting iFRならCoregistrationが臨床的意義を持つ

本研究の結果、PCI前のiFR Pullbackの目視とAngio画像情報によって、術者は治療後iFRを高い精度で予測することが出来た。このためiFR Coregistrationを臨床応用する意義が生まれ、PHILIPS社のSyncVisionにその機能が搭載されている。その開発データは欧米を中心とした数施設から収集されたが、Imperial College LondonではDr Justin E DaviesがPCIを施行し、私が専用レコーダー操作等を担当させて頂いた。SyncVisionの開発チームメンバーはImperialのカテーテル室を訪れて直接私達の意見を聴き、しばらくするとアップデートされたプログラムを持参するやり取りで、迅速に開発が進んでいった。開発に関わるそれぞれの意見が形になっていくのが判った。開発チームは日本の施設へも足を運んで要望を集めており、実際にかなり私達日本人術者の意見や、日本でのPCIガイドに必要となる機能が投入されて、質の高いPCIへのガイダンスをサポートするものになっている。開発担当者によると、我々日本人の意見は独特で面白く、欧米と全く違う視点を与えるので、非常に役立ったそうだ。
FFR PullbackではiFRのようなCoregistrationを開発しても11%の予測誤差が生じることになる (図2)。4,6

「血行再建するか、しないか」から、病変単位のDecision makingへ

Dr M Patel はAUC Guidelinesにおいて、FFRの代わりにiFRでの診療を許可しているが、11 iFR Coregistrationを「成熟した技術の進化」としている。「これまでは血行再建に対して、するか、しないかしかなかった」「 iFR Coregistrationによって一つの血管には軽い血流阻害があったり、ボーダーラインの阻害があったりすることが判る」「これによってどの病変を治療すればいいのか、iFR Coregistrationなら術者が判断出来る」としている。
これまでの大規模試験におけるPhysiological Guidanceは、遠位部spot計測によって血管単位のPCI/Deferralを決定するものであった。DEFER、FAME、DEFINE FLAIR、iFR SWEDEHEARTはいずれも一点計測でのGuidanceを評価している。12,13,14,15 これに対してiFR PullbackはPre-PCIの一度の計測により、病変単位でのPCI/Deferralを可能にし、PCI procedureを改善する可能性が示唆される。3,4

高いPhysiological outcome予測確度が示唆する今後の方向性

iFR PullbackによるΔiFRを用いて、iFR実測値を高い精度で予測出来るという本研究結果は、iFRが従来の技術よりも小さな誤差で、各病変におけるPhysiological significanceを評価出来ていることを実臨床で示している。このことはiFR Coregistrationが、心筋虚血を解除するために必要かつ十分なPCI Procedural Planningをガイドする可能性を示唆している。
Dr M Kern は、将来を考えると、全てのPhysiology and Imaging手技に、Pullback Coregistrationが日常的に組み込まれるであろうと、本研究に対してコメントしている3,4

‘Stay tuned for outcome data’

こうした結果を受けてDr M Kernは今後報告される臨床成績に注目であるとしている。Dr Gregg Stoneらは米国でのPCI後のiFR Pullback を行い、1 年後の臨床成績を観るPilot研究を行っている。また日本でも今回の多施設研究と、iFR Coregistration開発に寄与されたInvestigatorsを中心に、PCI前のiFR Coregistrationを用いた独自の臨床研究が計画、実行されている。
本研究及び技術開発データ収集や解析から判ったことは、日本のData qualityが非常に高いことである。またiFR Pullbackを含むカテーテル手技に関しても、日本人術者のレベルは非常に高い水準と思われ、今後日本からも冠動脈疾患診断治療に重要性を持つデータを出して行くことが出来るのではないかと考えている。

謝辞

当時DEFINE FLAIRで臨床成績が保証されるはるか前でiFRに対する懐疑的な見方が強い中、本研究に文字通り多大なるご協力を頂いた岐阜ハートセンター 松尾仁司先生、川瀬世史明先生、戸田中央総合病院 中山雅文先生、仙台厚生病院 堀江和紀先生、済生会横浜東部病院 山脇理弘先生、毛利晋輔先生、聖路加国際病院 水野篤先生、ツカザキ病院 萩倉新先生、和歌山医科大学 塩野泰紹先生、福山循環器病院 竹林秀雄先生、各病院のカテーテル室の皆様に深く感謝申し上げます。

References

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