FRIENDS Live 2018 会長ご挨拶

  1. ホーム
  2. FRIENDS Live 2018 会長ご挨拶
FRIENDS Live 2018 会長
福岡山王病院 循環器センター
横井宏佳

2017年は1977年にグルンチッヒが初めて安定労作性狭心症患者の左前下行枝近位部病変をバルーン拡張に成功してから40年が経過した節目の年であった。胸を切らないで(低侵襲に)、狭心症・心筋梗塞を治療することを目標に始まった冠動脈インターベンション(PCI)はバルーンからステント、そして薬剤溶出性ステント(DES)へと進化を遂げ、再狭窄は著明に減少し、冠動脈疾患治療の中心的役割を担っている。本年はこのPCIの歴史の変曲点ともいえる出来事が多くあった年であった。

冠動脈バイパス手術(CABG)に長期成績で追いつくことができない一つの理由として冠動脈に異物を残すステント治療の限界が指摘されてきたが、これを根本から解決する方法として生体吸収型スキャフォールド(BRS)に大きな期待が寄せられていた。しかし日米欧で施行されたDESとの無作為比較試験の結果、血栓症を始めとする安全性に関して現状のアボット社BVSでは未解決であることが明らかとなり、9月にアボット社はBVSの製造販売を中止した。これまで、デバイスのプロダクト・イノベーションで患者アウトカムを改善し進化を遂げてきたPCIの歴史の中で初めての敗北であった。

一方で本年3月のACCでPhysiological PCIの領域においては革新的な発表があった。これまで薬剤負荷によるHyperemiaが必須であったFFR指標と、薬剤負荷を必要とせず安静時の指標のみで行うiFR指標が、PCI必要病変決定において同等であることがDEFINE-FLAIR試験、SWEDEHEART試験より明らかとなった。薬剤負荷により血行動態の破綻、胸部症状の出現がPhysiological PCIの普及を妨げてきた一つの要因と云われてきたが、5000例に及ぶこれらの大規模試験の結果は臨床現場のプラクティスを大きく変えるプロセス・イノベーションの始まりであった。

本年8月のESCでは、このiFR/FFRのハイブリッド指標を用いて多枝病変に対してPCIを施行したSYNTAX-II試験の結果が発表され、初めてCABGに追いつくエビデンスが報告された。PCI時にIVUS使用がすべての病変治療に義務付けられ、DESは第三世代SYNERGYステントを使用し、完全閉塞性病変に対しても高い成功率が得られた本試験の良好な成績は、機能的評価以外の手技の改善点も結果に影響を及ぼしたと思われるが、日本型のきめ細かい丁寧なPCIがCABGに追いつく可能性を示したプロセス・イノベーションの実践であった。

これらの結果を踏まえて臨床現場の最前線にいる我々はこのプロセス・イノベーションの波を日常臨床に外挿しなければならない。どのようにiFRを使用するのか?iFRは安静時の指標であるため、より厳格で適切な操作手順が求められる。どのような症例にiFRにFFRを追加するのか?iFRとFFRの特徴を理解して使い分ける、併用していくことが重要である。プレッシャーワイヤーの操作が困難な症例ではどうするのか?マイクロカテ型FFR評価システムが登場している。これまではPCI前評価にのみiFR/FFRが注目されてきたがPCI後評価にもiFR/FFR指標が注目されており、さらなる予後改善につながるかもしれない。BVSが市場から撤退した中でLeave Nothing Behindという既に下肢の浅大腿動脈領域で議論されてきた治療コンセプトが冠動脈にも応用されようとしている。固有冠動脈にもDCBの使用が可能な我が国において、適切なLesion Preparation後にステントを用いずにDCBで治療を終える手技が可能である。このDCB前のOptimalバルーン拡張を何で評価するのか?ここでiFR/FFR指標が注目されている。このように今、Physiological PCIにおいて我々が挑戦しなければならないことが多く存在する。しかし臨床医一人の症例の経験ではこのプロセス・イノベーションにキャッチアップすることは困難である。患者さんはより有効かつ安全な治療をできるだけ早く享受することを望んでいる。今こそライブデモンストレーションを通じて皆で学び、議論し、日本でしか出来ない予後改善を目指したPCIのOptimizationを追求し、世界に発信していく時ではないだろうか。2018年のFRIENDS LiveはSYNTAX-II試験の責任医師であるEscaned先生をお招きし、プロセス・イノベーションを具現化する。

本年11月のTCTでは一枝疾患の安定狭心症患者に対してPCIとシャム治療を比較したORBITA試験の結果が発表された。PCIはシャム治療に比較して有意に胸部症状、運動耐容能を改善することが出来ず、症状を改善することがPCI治療の優越性であることがガイドラインにうたわれてきたが、根本を覆すエビデンスの報告であった。本試験の目的は何であったのか?本試験によりPCIのガイドラインはどのように変わるのか?すべての安定冠動脈疾患患者に適応できるのか?そもそも本試験の責任医師はどのような苦労で本試験を完遂したのか?、議論したいことは山積みである。2018年のFRIENDS LiveにはORBITA試験の責任医師Rasha Al-Lamee先生にオンラインでご参加いただき特別セッションを設ける。

本年4月には米国のPCI-AUCが改定され、本邦においても2018年の保険改訂よりPCI治療に虚血評価が義務付けられることが中医協で議論されている。AUCの導入により米国でPCIが30%減少したことが報告されているが、我々は黒船到来に恐れる必要はなく、Physiological PCIをより施行しやすい環境整備がなされることに期待を膨らませるべきである。最新情報を取得するために2018年のFRIENDS Liveでは行政の方をお招きし、産官学で議論を行うタウンホールミーテイングを企画する。

2018年のFRIENDS LiveはPCIの歴史的変曲点で行う最初のPCIライブデモンストレーションとなる。変化の激しいこの領域において時流を逃すことは致命的である。誰よりも早く一歩前に進むために、3月の東京で皆様にお会い出来ることを楽しみにしております。
To be involved in medicine, you must innovate.

メニュー