【対談記事】虚血性心疾患における機能的評価の重要性-算定要件の変更を受けて-

Heart View 7月号 掲載記事

東邦大学医療センター 大橋病院 循環器内科 教授 中村 正人先生
福岡山王病院 循環器センター長 横井 宏佳先生

安定冠動脈疾患に対して待機的に行う経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention;PCI)について、術前の検査等による機能的虚血の確認が2018年4月から、診療報酬の算定要件に加えられた。
今回の改定をどう考え、PCIにおける機能的虚血評価をどのように日常診療に組み込んでいくか。機能的評価が重視されるようになった世界的な動向を踏まえて、その重要性と意義、さらにどんな検査法が最善か、特徴や利点を含めて中村先生と横井先生にお話しいただいた。

対談動画

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PCIの適正化が求められている

中村:本日は虚血性心疾患における機能的評価の重要性ということでお話ししてみたいと思います。

横井:4月からPCI の算定要件が変更されることになり、先生方も気にされているのではないでしょうか。

中村:はじめに、今回の変更の背景をお示しします。図1は、COURAGE試験の成績です。安定冠動脈疾患に至適薬物療法とPCIを行う治療群と至適薬物療法のみの治療群を比較した試験で、両群間に生存率の差はみられず、病変があったからといって必ずしもPCIをするのではなく、薬物療法を優先する治療戦略も妥当であることが示されました1)
一方、DEFER試験では、病変の機能的虚血評価を心筋血流予備量比(fractional flow reserve;FFR)で行い、FFRが0 .75 以上なら、PCIを直ちに行わず先延ばししても治療戦略として妥当とされました。5年間の成績2)に続き、15年間の追跡3)でも結果は変わらず、注目を集めたのです。
FAME試験では、従来の血管造影に基づくPCIと比べて、FFRに基づくPCIのほうが有用であることも示されています4)

中村 正人先生

こうした知見をもとに、PCIの適正基準(appropriateness use criteria;AUC)という概念が出てきました。薬剤溶出性ステントが登場してPCIが成熟期を迎えたといわれるなか、医療の標準化が求められ、AUCは世界的潮流となっています。米国では、2009年に虚血性心疾患に関するAUCが公表され5)、2012年に改訂版が出されました。
2017年の改訂では、安定虚血性心疾患に対する血行再建術に関し、重要とされる虚血評価の指標としてFFRが採用されています6)
そうしたなか、わが国では中央社会保険医療協議会(中医協)で議論が始まり、2017年11月29日の総会で、安定冠動脈疾患に対するPCIについて、機能的虚血の証明が不十分と指摘されました。会議では、現在行われているPCIの70~80%が安定冠動脈疾患に対する待機的PCIであり7)、冠動脈の解剖学的な有意狭窄と機能的な有意狭窄に不一致があること8)、さらに安定冠動脈疾患に対するPCI施行前の虚血検査は37.8%しか行われていないこと(図2)9)などが示され、注目されました。
PCIを行う際の機能的虚血評価の重要性が俎上に上がったわけですが、大方の予想に反して早くもこの4月から、保険の算定要件にそれが加えられたのです(表1、ア~ウ)10)

日本独自のAUCは?

横井:ありがとうございました。AUCですが、米国ではその策定後、大きな変化が起きています。今後、PCIの適正化のために日本ではAUCはどうなっていくとお考えですか。

中村:米国では、安定狭心症に対するPCIが州によっては3割減ったという報告もあるようです。しかし、米国のものそのままでは日本にそぐわず、わが国なりのAUC、あるいは考え方を導入する必要があると思います。

横井:日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)では、「標準化」という言葉で広めていこうとされていますね。

中村:「適正」かどうかを第三者が判断するのは難しく、一方で日本のPCIを標準化するのは重要であり、この言葉で見直していくほうがふさわしいのではないかと考えています。
CVITでは今年から、フィードバックシステムを開始しています。これは各カテーテル検査室の手技に関する指標が日本全体の標準値からどの程度外れているかを図示し、それをもとに今後どの方向へ進むかをお考えいただくというシステムです。

狭窄の治療ではなく虚血の治療

横井:予想外に早く組み込まれた今回の算定要件の改定ですが、PCI医はこれをどう受け止めるべきだとお考えでしょうか。

中村:私自身も改定の早さに驚いていますけれども、FAME試験にせよDEFER試験にせよ、PCI を行うことによってむしろアウトカムを悪くするケースがあることがわかってきました。その一方で、薬物治療の成績が向上する。こうした点を考えると、なぜPCIを行うのか基本にもどる必要性を感じます。患者さんの予後やQOL改善がPCIの理由ですから虚血評価はむしろ当たり前のことと思います。本来すべきことを確実に、というメッセージと受け取っています。

横井 宏佳先生

横井:ええ、改定にある「ア」も「イ」も、おそらく中心だったと思われる「ウ」の虚血評価も(表1)、きわめて合理的で、バランスの取れた起点になるのかと思います。日本でも必要だと感じていたAUCへ向け、ある面、背中を押してもらったような気もしています。患者さんの予後の改善につながる治療を求めていかなければいけない。その意味で、狭窄した血管を広げるだけで終わらず、PCIも変わらなければならない。その1つのきっかけにしていかなければと個人的には考えています。改定が早く動いた背景には、医療経済的な側面もあるのでしょうか。

中村:どうでしょうか。やはり患者さんの予後を改善するということで、必要のないPCIが結果的に減れば、それはそれに越したことはないとの考え方ではないかと思いますけれども。

横井:虚血評価ということが今回、強く求められていると思います。もともとは虚血性心疾患の治療として、薬物治療で改善しなければ血行再建、PCIといった治療が始まったわけです。それがいつの間にか、安定冠動脈疾患という言い方に変わっていった。ここでもう一度、虚血性心疾患の治療なのだという原点に立ち返る必要があるのではという気がします。そうしたPCIを行うことで、実際、予後が変わるのか。日本人患者のデータも今後、必要になってくると思います。

中村:CVITでも今年から、予後を追跡すべきであろうということで、最低でも1万症例以上を登録してアウトカムを出そうという動きになっています。どういう症例やどういうPCIで予後がよいのか。虚血の証明をより高頻度に行って、アウトカムもよくなったという成績を是非作っていきたいものです。

どの機能的評価法が最善か

横井:今回の算定要件では、虚血評価に何を使うか、明記されてはいません。臨床ではFFRのほか、負荷心電図、負荷エコー、トレッドミル負荷試験、心臓核医学検査などが行われていることが図2には示されていました。どれが最善なのか、利点・欠点も含めて、教えていただけますか。

中村:安価な検査から入るのが通常の流れで、心電図が上位にあり、虚血の診断ツールに則って進めていくのが普通かと思います。ただ日本で普及している冠動脈CTからad hocでPCIを行う場合には、どこかで虚血の評価は必須になってくると思います。

横井:運動負荷試験は患者さんの虚血をみているように個人的には考えていて、心筋シンチグラフィは下壁、前壁、側壁どこの虚血なのか、冠動脈造影を行っていくつか見つかったうちの1つの病変の虚血評価ならプレッシャーワイヤを使ったFFR、と各検査法でも微妙に役割が違うような気もします。今回の改定以降、たとえば先生の施設でFFRの使用頻度は増えると思われますか。

中村:増えると思いますね。安定狭心症は虚血の証明を私の施設ではかなりしていますが、たとえばACS(急性冠症候群)症例の残枝で75%強の病変がある場合などでどうでしょうか。ただ今回の改定でどこまで求められるか、まだ少し分かりにくいところだと思います。

横井:カテーテル検査室に入った後、適正なPCIを行うという観点では、FFRが有用と思います。

中村:それは間違いないですね。多枝病変を確実に評価するという意味でも、非常に重要ですし、今後、重要性が増すと思います。

横井:左主幹部や左前下行枝近位部の評価にも、FFRから重要な情報が得られるように思います。

中村:そうした機能的評価と画像評価は相反するものではなく、両方使って良好なアウトカムを出す。われわれが次に求められているのはこの点で、的確に評価して、適切にPCIを実施することが重要であることを今後、訴えていく必要もあると考えています。

横井:血管内超音波検査(intravascularultrasound;IVUS)は虚血評価をする物ではなく、2つ必要になってくると思いますが、IVUSとFFRの同時使用が地域によっては保険診療で認められないこともあると聞きます。今回の算定要件の改定以降はどのようになるでしょうか。

中村:機能評価においてはFFRに勝る物はなく、イメージングで評価をするには限界があります。その一方でPCIにおいてはイメージングの役割も大きく、両方のモダリティを使えることが日本にとっては望ましいと思います。この点について規制当局に質問を投げかけたことがありますが、添付文書の記載どおり併用を禁止していることはない、との回答でした。実際に使えない事例があることも伝えましたが、その場合は個別に問い合わせてくださいとのことでした。

横井:FFRのプレッシャーワイヤは通常のガイドワイヤと似てはいますが操作性が異なりますし、最大充血をきちんと作って正確な数値を得る必要もあります。教育や学習も重要になると思いますね。
中村先生、本日はありがとうございました。PCIは成熟したと理解していましたが、今回の算定要件の改定で虚血評価というものを改めて突き付けられ、まだまだ奥の深さを感じます。虚血性心疾患に対する治療を見直すよい機会ととらえ、PCIをより高いところにもっていき、社会からも評価を受けていく必要があるのだと改めて思いました。

中村:われわれは虚血性心疾患を治療してきたのに、PCIの進歩とともにどう病変を治すか、狭窄をどう広げるかに関心が集中してしまった。いつの間にか冠動脈狭窄を治しているだけになってしまっていた。ある意味で、反省点を突き付けられていると思います。
しかし、虚血性心疾患の予後を改善するという点で、虚血の改善は必須ですから、もう一度PCIを見つめ直し、患者さんの予後改善に向けて頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。

文献

1) Boden WE, et al. N Engl J Med 2007 ; 356 : 1503 -16 .
2) Pijls NH, et al. J Am Coll Cardiol 2007 ; 49 : 2105 -11 .
3) Zimmermann FM, et al. Eur Heart J 2015 ; 36 : 3182 -8 .
4) Tonino PA, et al. N Engl J Med 2009 ; 360 : 213 -24 .
5) Patel MR, et al. J Am Coll Cardiol 2009 ; 53 : 530 -53 .
6) Patel MR, et al. J Am Coll Cardiol 2017 ; 69 : 2212 -41 .
7) 社会医療診療行為別統計.
8) Nakamura M, et al. Cardiovasc Interv Ther 2014 ; 29 : 300 -8 .
9) 厚生労働科学特別研究事業「NDB・DPC データを用いた循環器・血液領域の医療の質の評価に関する研究」. 平成28年度総括・分担研究報告書.
10) 診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上位の留意事項について(通知). 平成30年3月5日 保医発0305 第1号.
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411.html

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